2つのアルプスに挟まれる伊那谷。ダイナミックな地形を生かしたグラベルルートを案内。

長浜からやってきたサイクリスト、廣田さんと佐野さん。

2つのアルプスに挟まれたロケーションを堪能

長野県南部に位置する伊那谷は、西を中央アルプス、東を南アルプスにはさまれた、天竜川に沿って広がる盆地一帯を指す。中央&南アルプスのトレイルヘッドとして、トレッキングやトレイルランニング、渓流釣りといったアクティビティが盛んなエリアだが、最近は林道や農道、廃道になった登山道を利用した自転車ライドも注目されつつある。伊那市と隣接する宮田村を周回するグラベルライドにお誘いしたのは、滋賀県長浜市在住の廣田誠さん&佐野元昭さん。地元・滋賀では味わえない、アルプスの眺望のあるライドを楽しみにやってきてくれた。

水田が美しい季節。

朝9時、待ち合わせ場所のCLAMPで廣田さん&佐野さんと合流。廣田さんはCLAMPオリジナルのグラベルバイクフレーム「CG」に、お気に入りのバッグ類を装着したグラベルスタイルで。太いタイヤとドロッパーシートボストを組み合わせており、荒れたトレイルでも楽しく走れるバイク&装備になっている。一方の佐野さんは、気になっていたというグラベルロードバイク「KONA SUTRA LTD」をレンタル。ドロッパーシートボストを標準装備したモデルなので、こちらも快適なライドを期待できそうだ。それではさっそく、伊那谷ライドへ出かけましょう!

緑の田んぼの中を、東へ、南へ。

田んぼの畦道、水路横の小道。誰も通らないダートを走る

今回のルートは、伊那市中心部から天竜川を渡って東進し、三峰川沿いのサイクリングロードを走ったのち、沢渡高遠線の横を走るダブルトラックを目指す。前半は50〜100m程度の小刻みなアップダウンが続くので、早めにレイヤリングを調整する。フラットなサイクリングロードを快適に飛ばし、三峰川を対岸に渡り一気に坂道を登ったら、お待ちかねのダブルトラックへ。ここは入り口がややわかりづらいので、小さな水路を目印にしよう。

大迫力の中央アルプスを間近に。

鬱蒼とした木立のなかを縫うように走るダブルトラックは、このルート屈指の“いい道”のひとつ。平坦なので快適に走れるが、季節によっては枯れ枝や落ち葉によって路面状況がわかりづらくなる。また、夏場は草が伸びすぎて走りづらいこともあるので、自身の自転車のタイプやコンディションに合わせ、無理のないライドを心がけよう。

このあたりのマップをチェックしてみると、周辺には物見とも狼煙台ともいわれる山城が点在しているのがわかる。なかには土塁や郭といった遺構が残る城址もあるとか。歴史好きならそちらのトピックを掘ってみてもおもしろそうだ。

涼しい木立のなかを快適にライドできるダブルトラック。入り口ではこちらの水路を目印に。

さて、動物よけのフェンスが現れたらここでダブルトラックは終わり、林から田園地帯に入る。目の前にどーん!と大迫力の中央アルプス・宝剣岳が現れて、その山容にテンションもあがるはずだ。

「里山の雰囲気は似ているけれど、山々に囲まれた感じは長浜とは違うよね」(廣田さん)

「いまはちょうど田植えの時期で、水が張られた田んぼに山が映り込んで、かっこいい!」(佐野さん)

「いかにも」な谷地形の急な登りの先が、本日の最高地点(737m)。ここから先は田んぼの中を抜けて、最初の立ち寄り地点、とみがたベーカリーを目指す。

焼き立てパンを買ってハンモックスポットへ

田畑の中にポツンと現れる「とみがたベーカリー」は、地元素材にこだわった焼きたてパンが自慢のベーカリー。県産の小麦粉と東伊那の有精卵使って焼き上げるパンは、惣菜パンからベーグル、チャパタ、ハード系と実にさまざま。蕗味噌ブルーチーズとか、カブの葉のジェノベーゼとか、フィリングの食材のセレクトもとにかくイケている。個人的なオススメは、ワインのあてにぴったりのカンパーニュ、通称「ワイン泥棒」。気づかぬうちにワイン1本盗られます。佐野さんはクリームチーズ&ドライフルーツのカンパーニュと塩あんバターパンを、廣田さんはクリームチーズのサンドイッチをセレクトして、次の休憩ポイントへ。

「とみがたベーカリー」ではおいしそうなパンに目移りしてしまう。

休憩場所に選んだ殿島城址公園はヒノキ林に囲まれた小さな公園で、もともとここには16世紀前半に築城された殿島城があった。城自体は武田信玄に攻められ15世紀半ばに落城したが、大正の初めまでは濠が残っていたようだ。公園のなかにはちょうどいい間隔でヒノキが植えられているので、ハンモックを設営して休憩にする。折りたたみ式のULチェアもいいけれど、座ってよし・横になってなおよしのハンモックは異次元の快適さをもたらしてくれるから、張れそうな木立があったら、ぜひ、おためしを。一度使うと病みつきになるはずだ。

さっと張れて気楽にくつろげるハンモック。1人に一つ、オススメです。

サイクルフレンドリーな古民家カフェへ

予想以上にハンモックでくつろいでしまい、お昼時をすっかり回ってしまった。ランチ休憩のポイントに設定した古民家カフェに向けて出発する。朱塗りの吊り橋「北の城橋」を渡り、国道153号を横断すれば、目指す「マツノエダテラス」はもうすぐだ。

古民家の佇まいが美しい「マツノエダテラス」は、サイクルラック完備のサイクルフレンドリーなカフェ。看板猫(みーちゃん)が迎えてくれる。

築100年ほどの古民家をセルフリノベしたこちらのカフェは、2019年春にオープン。名物は、野菜くずをぐつぐつと煮込んだベジブロスをベースに、塩麹とココナッツミルク仕立てたスープカレー。あえて大ぶりにカットした地元の旬野菜と、もちもちの雑穀米の食感の違いが楽しい。「ドライカレーとスープカレーのあいがけ」はテイクアウトメニューから生まれた人気の一品。メニューにある「大盛り」の文字に惹かれた2人だが、隣のテーブルに運ばれてきた大盛りの量に圧倒され、あえなく断念。「大人なので、もう普通の量でいいんですよ…… 」という廣田さん、なんだか寂し気。

マツノエダテラス名物のあいがけカレー。

前半の林&田園とは一転、食後は市街地を抜けてCLAMPに戻る。設計とインテリアデザインを本業とする佐野さんは、周辺に連なる古い民家の様子に興味津々。

「長浜ではお目にかかれない、長野ならではの農村型住宅がおもしろいですね。とくにこの一角(西春近近辺)は漆喰やなまこ壁の旧家が多く、これまで走ってきたエリアと趣がまったく違う。そういう変化を感じられるのは、自転車の速度ならでは。家の形状から、養蚕をやっていた農家さんなのかなとか、その街の背景や人の営みを考えながら走るのも楽しい」(佐野さん)

なんて言っているうちに、いつの間にかCLAMPに到着。今日もいい旅ができました。「長浜でもチャリップのルートを開拓したい!」と言ってくれた廣田さん&佐野さん、おつかれさまでした!

その土地の暮らしを想像しながら市街地を走るのも、また楽しい。