白馬はサイクリストの楽園!北アルプスの眺望をつないでグラベルを走り、地元グルメを堪能する。

冬はスキー、グリーンシーズンは自転車を楽しみに、北信越のフィールドに出かけるという3人。左から、井原さん、高橋さん、八幡さん。

日本が誇るパウダースノー、通称“JAPOW”をお目当てに、世界中からスノースポーツ愛好家が訪れる長野県白馬村。日本屈指の山岳リゾート地帯が楽しいのは、冬だけではない。北アルプス・後立山連峰の山裾に広がるトレイルヘッドタウンのグリーンシーズンは、サイクリストの天国なのだ。マウンテンバイク乗りが集まる岩岳、ロード乗りには、北アルプスの眺望をつなぐ、日本最高難度の山岳ライドイベント、「北アルプス山麓グランフォンド」がある。そんな白馬のグラベルを走りに、富山県滑川市からやってきたのは高橋尚子さん。日本サイクリングガイド協会認定ガイドの資格を持つ高橋さんは、現在、「HAPPY CYCLING」の代表として地元を中心とした北信越でサイクリングツアーを企画・運営しながら、サドルの上で感じた土地の魅力や風景を広く発信している。今回は高橋さんのアクティビティ仲間である八幡久康さん・井原真吾さんの3人が白馬をライドする。

GPSデバイフルサスのマウンテンバイクからロード、グラベルバイクまで多彩なバイクを乗りこなす高橋さん(中央)は、’24年8月にHAPPY CYCLINGの実店舗を滑川市内にオープン。普段はロードバイクとマウンテンバイクに乗っている井原さん(左)は、自宅の前にマウンテンバイク用のトレイルを整備しているほか、スキーのチューンナップやスキー板の製作も行うという、全方位の遊び好き。このバイク一台でロードも山も走る八幡さん(右)は極小ギアで激坂をスマートに登っていた。こう見えて、元数学の先生!そして山岳部の顧問。こんな先生に習いたかった!

待ち合わせたのは白馬オリンピック大橋駐車場。今回のライドはグラベル率が多め、かつ、荒れたダートも出てくるので、タイヤ幅は32C以上、できれば35C〜のタイヤがおすすめ。3人はグラベル仕様のバイクでやってきてくれた。

駐車場をスタートして、さっそくみそら野方面へ。パンや焼き菓子を購入できる「サクララSweets&Bakery」に寄って行動食を調達する。みそら野から八方エリアを走り抜け、県道322号線を越える。右手を見るとコンビニがあるので、追加の行動食が必要ならこちらで。その前には「和(なごみ)の湯」(白馬八方温泉八方の湯敷地内)という足湯がある。ここはライド後の立ち寄りポイントとしてチェックしておこう。

姫川第二ダムに架かる赤い橋。

市街地を出て橋を渡り、棚田が広がる青鬼集落へ

1県道を越えるとあたりの雰囲気は一気にローカル感を増し、行き交う車も少なくなる。左手に白馬五竜岳を眺めながら裏道をさらに直進。その先で白馬村を南北に貫く国道148号線とぶつかるので、国道を渡って東側へ。そこから姫川を渡る吊り橋まではゆるやかな下りだ。まだ風が冷たい4月、ここでシェルを着るなどレイヤリングの調整をするのがよさそうだ。
 
信州森上駅前と塩島城址前を通過すると、その先にエメラルドグリーンの姫川が見えてきた。姫川第二ダムに架けられた赤い橋を渡るとすぐ、青鬼(あおに)集落に至る激坂(大げさ?)が始まる。傾斜6.64%となかなか辛い登りだが、全長は1.5kmほど。右手に見える五竜岳や唐松岳の姿に気を紛らしながらペダルを踏みまくる。歩いた方が速いけど……というペースで進むうちに、青鬼集落に到着した。

1.5kmほど続く急な坂道を登る。
登って、登って……。
青鬼集落に到着!生活の場であることを心に留め、ごみを捨てない、田んぼの畦道に立ち入らないといったマナーを守っての訪問を。お手洗いは「お善鬼の館」にあり。

里山の風景と北アルプスの共演を一望する

青鬼集落は白馬村北東部に位置する東山の山腹、標高760mほどに位置する山村集落で、江戸時代後期から明治期に建てられた茅葺き屋根(現在は鉄板で覆われている)の家屋や蔵が連なっている。なによりもすばらしいのは、手積みしたであろう石垣で区切られた、見事な棚田!その数、およそ200枚。棚田に水が張られる晩春には、田んぼの水面に北アルプスが映り込み、それはそれは雄大なランドスケープが楽しめるとか。

青鬼集落の展望台まではさらに緩やかな登りが続く。集落の棚田では、村の特産品開発の試みとして、もち米の一種である古代米原種の「南京香稲(なんきんこうとう)」と、古代米を品種改良した「朝紫」という2品種が栽培されている。白馬の道の駅でこの紫米を加工したお土産を販売していることがあるので、帰りにチェックしてみて。

こうした棚田の風景と伝統的な建築物に加え、806年の創建といわれる青鬼神社、江戸時代後期に造られ、いまも現役の青鬼堰(用水路)を含めて、文化庁の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。棚田の上に設けられた展望台まで上がってみると、開けた南西方向に鹿島槍ヶ岳、五竜岳、唐松岳の連なりが一望できた。まさに絶景!この眺望を目にするだけでも、ここまで息を切らして登ってくる価値あり。

展望台でブレイク。

いよいよオフロード。バリエーションの異なる路面を楽しむ

展望台で一休みしたら、下り坂に備える。ウエアリングを調整したら、息を切らして登ってきた坂道を一気に下る。赤い橋を渡ったら、往路とは違う、田んぼの中のフラットな舗装道を進む。その先に現れるのが、“白馬の絶景の橋のひとつ”と言われる松川大橋だ。近くに建物や民家がないため、コバルトブルーの松川を背景に、荒々しい岩稜の五竜岳を一望できる。松川大橋を渡ると、いよいよオフロードパートだ。

橋を渡った先の二股を左へ。畑を回り込むようにダブルトラックのオフロードになっている。姫川沿いのダブルトラックはやがてシングルトラックとなり、通行する人もいないのか、生い茂った草が路面を覆い隠す箇所も。道なき道を探検する感じが楽しいけれど、このパートはスキップも可能だ。右手には舗装道が走っているので、自転車のタイプやコンディションに応じて舗装道を走ってもいい。無理のないライドを心がけよう。

このルートはグラベル率高め。太めのタイヤがおすすめ。

そのまましばらくダートを走ると、白馬村浄化センターが見えてくる。施設を回り込むようにグラベルを走ると、そこでオフロードは一旦、終了。舗装道の脇に民家や自販機が現れ、徐々に人通りも増えてくる。その先に、古民家を改築したカフェ「かっぱ亭」が見えてきた。ここで休憩してもいいし、この先の大出吊橋を渡って、大出公園の展望台まで上がって一休みするのもいい。展望台までは急坂のグラベルなので、登りに差し掛かる前にギアチェンジしておこう。

展望台は村内でも有数のビュースポットで、白馬三山×姫川×吊橋というトリプルコンボの、風景画のような眺めを楽しめる。ここから見える白馬三山は、左から、尖った山容の白馬槍ヶ岳、右隣に杓子岳、なだらかな白馬岳(ちなみに、山の読み方は“しろうま”となる)。川沿いの遊歩道にはサクラが植えられていて、シーズンにはサクラと白馬三山のコラボが見事だ。

大出吊橋から姫川を眺める。4月半ば時点でソメイヨシノは終わり、八重桜が咲いていた。
歩行者が多い大出吊橋は自転車を押して渡る。

展望台の前の急坂を下り、国道406号に出る。姫川を再び渡り、その先で左手の細い裏道へ。舗装道はやがてオフロードとなり、荒れたグラベルだったり、ダブルトラック→シングルトラックのダートになったり。このパートではタイプの異なる路面を楽しもう。この区間もスキップ可能なので、迂回したければマップを確認して別のルートを探そう。小さな吊り橋を渡り、大糸線の踏切の手前を左折して県道33号へ。途中で畑に囲まれたグラベルに入る。害獣除けの電気柵があるので、柵に触れないよう、自転車を担いで渡ろう。

畑の間を縫うように、フラット基調のオフロードが続く。

スキーヤーに登山家、アウトドア愛好家が集まるカフェへ

舗装道をしばらく走って左手に現れる、山小屋のような佇まいの建物が、今日のランチスポット、「mountain hut」だ。もともとここには、スキーヤーやスノーボーダー、登山家たちが集まる、有名なシェアハウスがあった。このシェアハウスは2014年の地震で全壊してしまうのだが、現オーナーの、「もう一度、人が集まる場所を作りたい」という思いがかつてのシェアハウスの住人や地元のスキーヤーたちの共感を呼び、多くの人たちの協力のもと、ハーフビルドで建てられたのが、現在の「mountain hut」だ。本格的なネパールカレーをいただけるということで、「本日のカレープレート」をオーダー。そのときどきの旬の野菜を使ったサンバルに、スパイスの効いたアチャール、そして滋味深いカレーのコンビネーションが絶品なのだ。

食後もついゴロゴロしたくなる居心地のよさ。

「mountain hut」を後にして、再び自転車にまたがる。ここからはフラット基調で、鋪道とグラベルをミックスしながら八方エリアに向かう。途中、ラーメンの「高橋家」などさまざまな立ち寄りスポットが現れるので、お好みで。そうこうするうちに、ゴールに到着。

「白馬には、富山にはないフィールドが詰め込まれていて、シチュエーションに合わせた遊び方ができるところがいいですよね。普段、スキーをしたり、マウンテンバイクでダウンヒルをしたりという白馬で、のんびりグラベルをライドするというのは新しい経験でした。富山でもゆるふわグラベルライドを企画したい!」と高橋さん。富山に強力なチャリップ仲間ができて、うれしい限りです!

白馬ライドのお楽しみといえば温泉!時間がないときは足湯を利用するのもいい。こちらは八方温泉八方の湯の施設内にある「和の湯(足湯)」。
みそら野エリアの「サクララSweets&Bakery」で購入したパン。